キミと僕と二匹の猫






 猫を拾った。

 それが何故こんな事になったのか、誰か知っているなら教えて欲しいもんだ。
 …………まあ、

 教えられる人間がいれば、の話だが。





 かいとは予想に違わず、頭の良い猫だった。

 朝は俺を起こしに来て、階段を降りる時は俺の肩に乗る。
 餌箱の前にきちんと座って食事を待ち、終わったら皿を鼻で押しながら流し台のところに持って来た。
 俺が本を読んでいる間は膝の上にのって一緒に本を見ていたり、調査があって調べ物に忙しい時は絶対に俺に絡もうとはしない。

 ……本当に猫かよ?

 その代わり甘える時は凄くって、猫じゃらしどころか俺の手に飛びかかってくる。
 ばたばたと俺を追いかけたり俺によじ登ったり、背中とか腰辺りに飛びつくのが好きみたいだ。
 寝転がると一緒に横に並んで、俺の手の甲をざらざらする舌で舐める。そして上目遣いに俺を見やる。

「くすぐってぇよ」
「にぃ」

 ぱたりと振られた尾が俺の脇腹辺りに当たる。子供を宥めるみたいに何度も何度も。
 それは不思議な感覚で、俺はいつもそれを合図に昼寝を始めてしまうのだった。


 かいとが来て何が変わったかといえば、やはり気分だと思う。
 嫌な事件を扱って少しへこんだりしても、家に帰って出迎えられたりするとホッとする。愚痴ってしまっても、かいとはそれを神妙に聞いていて、宥めるように擦り寄ったり頬を舐めたりしてくれる。
 それは人にはない暖かさで、でもとても欲しかった温もりで。
 俺の腹の上にどっかり寝そべっているかいとを見詰めながら、俺はついつい笑ってしまう。

「お前の事拾って良かったよ。すげーホッとする…」

 そう呟くと、かいとは決まって片目を開けて耳をぱたつかせ、照れくさそうに顔を洗い始めるのだ。


 今日も今日とてかいとを膝に乗せて読書。
 すると、庭に数匹の猫が現れた。
 途端にかいとががばりと起き上がり、窓に向かってダッシュ!
 薄く開けてあった間から飛び出し、あっという間に猫達を追い払ってしまった。

 かいとは酷く縄張り意識が強い。何故だろう、家猫のはずなんだが。兎に角この家に他の猫が近づくと牙をむくのだ。

「お前もうちょっと大らかになれよ?」
「ぐるるる…」
『やなこった!』

 喉を撫でる俺の手をぺち、と叩き返し、不満げにうなった。苦笑して頭をぐしゃぐしゃ掻き回すと更に唸る。
 全く、何が気に入らないんだか。この家全部お前の縄張りだってのに、庭くらい他の猫に明渡してやれよな?
 縄張りに関する根性ってよく分からないけど、そのくらいしても良いと思うぜ?
 面白そうに見詰める俺を見上げかいとは『これだから人間は分かって無いよな』って顔をした。