正直な所、俺は自分がナルシストだと思う。
こうして改めて考えるのも何か間抜けな話だけど。
だってじゃなきゃなんであんな格好して自惚れ倒したような台詞吐いて警察相手に遊べるんだよ。
この世に俺以上のものはないってな自信過剰自意識過剰な部分がなきゃ、出来やしねぇだろ。
完璧な、俺。
あながち間違った認識でもないよな。
IQ400なんてさ、別に欲しくもなかった。
それを聞いた青子にバカボンのパパって言われた時はじょーだんじゃねーって感じで。
でも、隠せない自分と他人の差。それを知ってから、俺は必死。
みんなは一度見ただけのマジックのタネは分からない。
みんなは一度聞いただけの音楽を正確に記憶することは出来ない。
小さな行動から派生する小さな問題、更にそこから生まれるだろう問題なんて予測出来ないし、それへのまともな対処も出来ない。
何で?
何で分からないの?
訪ねる俺はやはり異様な子供でさ。
親父とお袋が庇ってくれなきゃ、今ごろ白い部屋でぶつぶつつぶやくヤバイヒトになってたかも。
こういうのは理解者が必要だよな、うん。
俺は必死に偽る事を覚えて。
親父の教えてくれたポーカーフェイス、トリック、全てが日常に役立てられた。
それを見て、親父もお袋も悲しそうだったけど。
だって、仕方ないよ。
イレギュラーは望まれない社会なんだぜ?
サイレント・マイノリティ、なんて言えば聞こえは良いけど、でもそれも正確じゃないし。
俺は、天災。
天才じゃなく、天災。
天災と天才は同じようなもんだよ。
いきなり生まれて、最初は侮られて、そのうち怖がられて。
ありがたがられるのは、遠くこの世を去ってから……あ〜やだやだ。
人に望まれれば天才になれるのかもしれない。
でもやっぱり俺は天災にしかなれなくて。
「む〜なしいよな〜………」
呟きながらジュエルを月にかざす。
今日月夜の散歩にお誘いしたのは、『月下の貴婦人』と言う名の乳白色の美人さん。
銀と細かな紅玉碧玉に飾られた、その白い柔肌をこの魔術師めに見せてくださる。
俺は彼女の胸のうちに輝くだろう希望の欠片を探し―――溜息をついた。
は・ず・れ。
しとやかに俺に身を任せている淑女に、お礼のキスをして、俺は彼女にお休みいただいた。
…………ポケットにしまっただけだけどな。
まあ、あとは姫君を寝所にお連れするだけだしー?
それは別に強面の騎士軍団におまかせすりゃいいし?
「…………帰ろ」
素早く翼を作ると、俺は空へと飛び出した。
つまんねー。
つまんねーつまんねーつまんねーつまんねーつまんねー!!!!
なあに、あなた!! 倦怠期ってやつかしら!? 警察とのやりとりがつまらないだなんて!!
KIDファン倶楽部の中森警部が聞いたら泣くわよ〜?
っていってもなあ、役にたたねーよ、あの人。暗号解読が出来ても、単純思考はなかなか直らないし。
親父さあ、もうちょっと違う方向に導いてやることもできただろーに。なんであんな風にしたかな?
まあ自分がつかまっちゃお終いだからってのも、理由なんだろうけど。ご近所でつんけんしたくないもんなー。
……でもやっぱり。
「つまんねーぞーっ!!!」
吼えちゃうよ?
仕事のあとは家には帰らず、アジトの一つに留まる事にしている。
ここは暫く使って無かったけど、寺井ちゃんがきちんと掃除してくれてたみたいだ。自分の店もあるのに、ごめんね寺井ちゃん。
最低限の家具とやけに大仰なパソコン類だけが在る部屋で、俺はKIDの扮装を解いた。
そのままベッドにばたんきゅ〜。
ぼんやりとパソコンを見詰める。
スクリーンセーバーがくるくる動いてる。
滑稽な踊りを踊る熊。
……俺みたいだな、お前。
舌打ちして、俺は寝返りを打った。
例え浅くても、何処でもすぐ眠れるのは俺の特技。
今日も夢を見ないで寝るんだろうな。ちぇっ。