化野夜話 〜 第六夜・終幕





 闇。草原。

 私の為に用意された、私の玉座。
 最近は昼でもこちらに意識を向けている事が多い。こちらが私にとっての現実の様にも思えてきた。
 全てを失い生きる此岸と。
 全てを手に入れ見つめる彼岸と。



 救われるべき者は救い、死すべき者は死へ送る。
 あの鎌が何なのかはっきりとは解らないが、少しだけ解った気がする。
 そしてあの河の事も、ほんの少しだけ。
 渡し守の事も、少しだけ。


 橋。
 運命。

 唯、有る者。



 ほんの少しだけ、理解した。






 今日も私は「こちら」にいる。
 この草原の事も解ってきた。
 この草原に相応しい名を、私は知っていた。



 あだしの。



 人を焼き、打ち捨てた野を指す言葉。
 死の入り口となる地の名。

 まさにここは、その化野ではないか。




 渡し守は今日も死者を分ける。
 救う者は救い、死す者は死へ送る。





 そして時折 私を見て。




 (「時」は巡りましょう、我が王…)

 (再び運命に星が現れるその「時」に…再び)
 (この世界に満ちる為に…)














 風が吹き、マントを翻す。


 冷たい風だ、と死者は言う。
 この地に吹く風はこんなにも暖かいのに。

 ああ、それも。


 この地故に。

 私、故に。










 これからはこの地を化野と呼ぼう。



 私の為に用意された、私の玉座。


 闇の中、青く輝く草原。
 昏く広がる河。
 ぽつんと置かれた岩。
 遥か高く空に揺らぐ光達。

 私の、世界。







 ……眠ろう……。


 「時」が来るまで、眠りにつこう………きっと遠くは無い。
 「生」と「死」が無くならない限り、私は「有り」続けるだけなのだから。






 私は「有る者」。
 私は「器」。
 私は「支配者」。
 私は「贄」。



























 私は命の裁断者。





 全てに君臨する絶対の理。