闇。草原。
私の為に用意された、私の玉座。
最近は昼でもこちらに意識を向けている事が多い。こちらが私にとっての現実の様にも思えてきた。
全てを失い生きる此岸と。
全てを手に入れ見つめる彼岸と。
救われるべき者は救い、死すべき者は死へ送る。
あの鎌が何なのかはっきりとは解らないが、少しだけ解った気がする。
そしてあの河の事も、ほんの少しだけ。
渡し守の事も、少しだけ。
橋。
運命。
唯、有る者。
ほんの少しだけ、理解した。
今日も私は「こちら」にいる。
この草原の事も解ってきた。
この草原に相応しい名を、私は知っていた。
あだしの。
人を焼き、打ち捨てた野を指す言葉。
死の入り口となる地の名。
まさにここは、その化野ではないか。
渡し守は今日も死者を分ける。
救う者は救い、死す者は死へ送る。
そして時折 私を見て。
(「時」は巡りましょう、我が王…)
(再び運命に星が現れるその「時」に…再び)
(この世界に満ちる為に…)
風が吹き、マントを翻す。
冷たい風だ、と死者は言う。
この地に吹く風はこんなにも暖かいのに。
ああ、それも。
この地故に。
私、故に。
これからはこの地を化野と呼ぼう。
私の為に用意された、私の玉座。
闇の中、青く輝く草原。
昏く広がる河。
ぽつんと置かれた岩。
遥か高く空に揺らぐ光達。
私の、世界。
……眠ろう……。
「時」が来るまで、眠りにつこう………きっと遠くは無い。
「生」と「死」が無くならない限り、私は「有り」続けるだけなのだから。
私は「有る者」。
私は「器」。
私は「支配者」。
私は「贄」。
私は命の裁断者。
全てに君臨する絶対の理。