「よぉ、ガイ。見舞いに来てやったぞ、傷はどうだ?」
「はっはっはお前に蹴り飛ばされて切ったこめかみ以外は無傷だからそんなに心配してくれなくていいんだぞルーク。今だって蹴り飛ばされたのが頭で出血が思いの他多かったし直後に倒れたから大事を取って休んでるだけで」
「悪かったって。だって皆寝てるあの状況で思う存分暴力の奮い甲斐g(ごほん)実力行使で目を覚まさせる事の出来る相手ってお前しかいないだろ? アゴヒゲ・グランツは襲撃犯とやりあってたし、年寄りのペールをぶつわけにも行かなかったし、ましてや俺がマユヒゲ庇って戦う訳にも行かなかったし」
「本音が漏れてるぞ……まあ、お陰で助かったというか助けられたというか」
「名目上護衛剣士なんだからな、俺が耐えたってのに譜歌聞いてのんびり寝てました、なんて事になってたらお前の首飛ぶもんなー。起こした俺に感謝しろ」
「まこともってありがたきお言葉ですよ、全く………そういえば、あの襲撃犯どうした?」
「今は王城の地下牢にいる。何か身柄引き渡しとかでダアトからちょっかい出されてるっぽいけど、親父のあの怒り具合から考えても、多分こっちで処分されるだろ」
「何かグランツ謡将と知り合いっぽかったけど、そっちは裏取ったんだよな?」
「仕方ねぇなあ、興味深々でお耳ダンボのガイちゃんに、優しいルークお兄さんが色々と教えてあげるよ」
「………何処でそういったことを覚えてくるんだ、お坊ちゃま」
「お前が音機関雑誌に紛れ込ませてた『月間お兄ちゃんと一緒隔月増刊12号・つんでれゆりなちゃんのえっちな課外授業編』」
「見たのか見ちまったのかってか見るな元に戻したんだろうな隠し直してくれたんだろうな!!?」
「もちろん隠し直したぜ、ペールのガーデニング雑誌の間に」
「鬼ぃぃいぃ!!」
***
「えーとだな、結論から言うと、あの女襲撃犯マユボンバー・グランツの妹らしい」
「妹!?」
「色以外は似てない兄妹だよなー、考え甘いのはそっくりだけど」
「妹… (知らないぞあいつに妹だなんて)…」
「そこでハァハァすんなよガイお兄ちゃん」
「ちがーう!! そのネタはもう引っ張るなっ!!」
「泣くなよガイお兄たん」
「うううううう…!!」
「んでだな、捕縛後にその恐れを知らぬ行為の真意を、父上と王国軍部が誇る諜報部の拷問官が張り切って丁寧にお伺いしようとしたところ、かなり物騒な事をいいだしてな。つってもまだ本格的なこと何もしてないのに石一つ抱かせただけでべらべらとまあよく喋ったぜあの女。初めは『モース様がお許しにならないわ!』とか『こんなことして許されると思ってるの!?』とか『誰でも暴力で言うことを聞かせようだなんて!!』とか随分と空気読めない発言だらけだったけど」
「うう……物騒?」
「マユヒゲボンバー・グランツが大陸を沈めるんだそうだ」
「……………………は?」
「どうやってか知らんが、副官とそんな話をしていたんだと。実家でそれを立ち聞きしてこれはヤバいってんで追いかけて殺そうとしたんだそうだ」
「は? え?」
「なあガイ、お前解るか? 何をどうやったらそんなことが出来るかは置いておくとして、普通真偽を質すよな? 幾らヒゲボンバー・グランツが妄想200%なことを口にしたからって、普通は妄想塗れの兄貴とは言えいきなり殺すなんて結論にはならないよな?」
「そりゃ当然だろ? 何だその短絡思考、ってか途中の思考回路はどの次元に飛んで行ったんだ?」
「解らねぇよなー。いや、解ったこともあるか。その素っ頓狂な話を聞いて、グランツ・魅惑の低音ボイス謡将が何言ったと思うよ? 『あれは誤解をしているのです、きちんと話をすれば解るでしょう、私が説得いたします』だとよ。どっちもダアトの軍人って事で自分も牢屋に入ってんのにな」
「でもダアトから引渡しの話が来てるんだろ?」
「あぁ。その様子から見て恐らく舌足らず低音ボイス謡将は襲撃に関係してないんだろうって結論にはなったから、数日後には解放されるはずだぜ。…もう二度とうちの敷居は跨げねえけどな」
「え」
「だって普通そうなるだろ? 自分の妹すらまともに教育出来てないらしい男に公爵子息の教育任せられるか? 俺、一応は次期国王だぜ? やばい思考回路の実例(いもうと)見せられて、それでもお任せしますなんて誰が言うんだよ」
「あ、あー…確かに、な…」
「いくらこっちに赤紫達磨モースがいるとはいえ、ダアトにはきっちり抗議文送ったし。導師は自分の部下放置して何してんだっての。あ、今行方不明なんだっけか? それも変な話だよなー。じゃあ何で赤紫達磨がキムラスカにいんだよ、あいつここ数ヶ月ずっと伯父上の傍にいるんだぜ? 何で導師はそれを帰って来いって言わない?」
「俺に聞かれても!?」
「自問自答だよガイお兄ちゃん」
***
「……… ルーク、本当にどうしたんだよ」
「……」
「何か公爵様もぴりぴりしてるし、奥方様もふさぎ込んでるし」
「……」
「………… なあルーク、俺はそんなに信用ならないか? これでもお前の兄貴分として色々面倒見てきたつもりだったんだけどな」
「………ガイ………」
「ん?」
「なあ、ガイ…………もし、もしも、俺が、」
「うん」
「もしも俺が、人じゃない、って言ったら、お前、どう思う……?」
「え……」
「もし俺が人じゃなくて、父上と母上の息子じゃなくて、実は誘拐されたときに入れ替わってた偽者だったとしたら、お前、どうする…」
「ええ、と……………、……そ、そりゃお前はいつも人じゃないっていうか人でなしなところが凄く多くて、寧ろ人じゃなくて悪魔だって言われた方が納得行く奴ではあったけごめんなさいごめんなさいそのハンマー下ろしてくださいお願いしますこの音機関だけは頑張ってルークお坊ちゃまの為に初めてのお給金つぎ込んで作ったこの蓄音機関だけはああああああああ!!!」
「お前の忌憚ない意見が心に沁みたぜ……そう思ってたんだな、親友とか兄貴分とか言いながら結局はお前は……!!!」
「やめてやめて振り下ろさないで粉々にしないでえええええええええええええ!!!」
「ううううう俺の、俺の初任給…!!!」
「で、冗談は置いておくとして、お前はどう思う? どうする、俺がもしも本物のルーク・フォン・ファブレじゃなかったら」
「…どうするって、言われても…………………………………いつもどおり生活する、かな」んr
「……だって偽者だぜ?」
「偽者でも、俺がお世話をしてきたのはお前だろ」
「そんな理由かよ」
「それ以上の理由なんてあるのか?」
「……そんなに俺の下僕でいてぇの?」
「はっはっはせめて親友にしてくれよ」
「さっき散々俺のこと鬼とか悪魔とか詰った癖に。人でなしって責めたくせに。俺のこと、俺の………っ!!」
「え、おい、ルーク?」
「そんなに俺のことが嫌いなら最初から言えばよかっただろ!? そうだよ、俺偽者なんだよ!! どうせ俺は父上にも母上にも報いて差し上げられない屑なんだ……親友だって言ってたお前にまでそんな風に言われるような、生きてる価値もない愚物なんだ…!!!」
「ちょ、俺そんなこといっ………って、しししししシュザンヌ様何時の間にそこにいぃっ!!?」
***
「いやー、お前の尊い犠牲のお陰で母上と和解できたよ、マジさんきゅな、ガイ」
「……………………」
「まあ普段の態度がものを言ったな。父上たちの前で良い子やっててよかったぜ。多分母上が父上のフォローしてくれるだろうし、これで少なくとも俺の未来は暗くは無くなった。あーよかった」
「……………………」
「何だよいじけるなよ下僕、お前は虐げられてこそ輝く男だろ?」
「………………、」
「ん?」
「シュザンヌ様…(うっとり)」
「うわ目覚めやがった」