化野夜話 〜 第一夜・起





 闇。草原。

 簡単に言ってしまえば、そんなところ。
 闇の中に広がる草原。青く、輝く草原。
 少しいくと大きな岩があって、そのすぐ横には大きな河原と河。
 河はホントに大きくて、対岸ははるか先に輝いて見えるだけだ。
 昔聞いたお伽話しに出て来た、別れの河みたいだった。



 別れの河は彼岸と此岸を結ぶ土地。
 そこには黒い翼を持つ渡し守がいて、彼岸に行く者は船に乗せ、
 狭間へ落ちる者は河へ投げ入れると言う。
 手に持つ鎌は全ての者に振り下ろされる為にあり、決して折れる事はない。


 オデッサさんが死んで……だからこんな夢を見たのかな?
 僕はぼんやりとしていた。

 だから、止められなかった。



 オデッサさん。






 オデッサさんが歩いていた。
 何処にいるのかわからないと言う顔で、ふらふらしていた。
 僕には気づいていないみたいだった。



 突然風が吹いて、河が現れた。
 オデッサさんの前に、布が広がったのを覚えている。
 真っ黒な布。誰かがお化けの真似をしてたのを思い出させる、そんな形。
 違うのは、その下から出てる白い手が大きな鎌を持ってる事。
 大きな、黒い翼がある事。











 (めぐまれたおんな)

 (おまえはえらばれたのだ、わがおうによって)

 (おうのおちからのなえどこたる、だいいちのにえよ)



 そいつはそんな事を言って、鎌を振り上げた。
 振り下ろされる鎌を、オデッサさんは綺麗に避けて。




 (冗談じゃないわ!!)

 (私は贄じゃない! 私は私、オデッサ=シルバーバーグよ!)
 (私は死んだけれど、犠牲になるためではないわ! 私を苗床と呼んでいいのは大義を目指す者だけ! 死神になど、呼ばれたくはない!!)
 (第一の贄? 次があると言うのなら、尚更なれるはずなど無いでしょう!?)
 (私はそう言えるだけの運命を選んできたつもりよ!!)


 (その運命がこの終末にたどり着くだけの事)

 (ふざけないで!!)

 (ふざける必要などありはせぬ。他のどの魂よりも、あの御方に相応しきもの、それを選んだのはあの御方)
 (そう、あのおかた)
 (滅びの御子)
 (我が王)
 (愛しき贄)
 (死に怯える事しか知らぬ、真に世界の命運を握るに相応しき方)
 (我が身我が力全て委ねるに相応しき御方)



 鎌がゆっくりと僕を指す。
 オデッサさんは僕に気が付いたみたいだった。





 (フェンレイ・・・!!)





 (我が王に栄光の道を示す為、苗床たれ!!)




















 オデッサさんが振り返るより速く。
 鎌が振り下ろされた。




















 オデッサさんは泣きそうになって、










 笑った。




















  僕は 気を失って 目覚めた。





 → 第二夜