闇。草原。
あれから見る事は無かったのに、またこの夢だ。
闇の中に広がる草原。青く、輝く草原。
少しいくと大きな岩があって、そのすぐ横には大きな河原と河。
河はホントに大きくて、対岸ははるか先に輝いて見えるだけだ。
前と何にも変わらない、お伽話の別れの河。
グレミオはよく話してくれた。
もしもそこへ行けたら、渡し守にお願いする事が出来るんです。
会いたい人の名前を言って、船に乗せて貰えるそうですよ。
そうすると対岸から、会いたいと願う人が船に乗って来るんだそうです。
……ただ。
ただし、狭間に落ちている人は私達を引きずりこもうとするんだそうですよ。
苦しくて、少しでも助かりたくて。
でも坊ちゃん、もしも私がそうなっても、坊ちゃんだけは…。
グレミオ
呆然とグレミオが立っている。
何処だろうと考えて、でも思い付かないみたいだった。
僕には気付いていない。
突然風が吹いて、河が現れた。
グレミオの前に布が。前と同じ。
真っ黒な布。黒い翼。大きな鎌。前と……。
…おかしい。
翼が、四枚? 二枚じゃなくて?
前と違う? お伽話と、違う?
(むくわれぬおとこ)
(おまえはえらばれたのだ、わがおうによって)
(おうのおちからのなえどこたる、だいにのにえよ)
そいつはそんな事を言って、鎌を振り上げた。
振り下ろされる鎌を、グレミオは必死に避けて。
(冗談じゃありませんよ!!)
(貴方の王が誰であれ、私の主は一人です!!)
(私はあの方の為に死んだ! あの方以外の誰かに命を捧げる気などありません!!)
(第二の贄!? そんなものになる気はありませんよ!!)
(私の生も死も、すべてあの方の為だけにあるものです! 死んだ後の魂も、すべて!!)
(私はそれだけを思い、生きてきたのですから!!)
(なればこそ、その命捧げねばならぬ)
(ふざけるな!!)
(ふざける必要などありはせぬ。他のどの魂よりも、あの御方の側にあったもの、それを選んだのはあの御方)
(そう、あのおかた)
(永遠の御子)
(我が王)
(愛しき贄)
(死に怒る事を知った、真に無垢であり続ける事の出来る方)
(我が身我が力全て委ねるに相応しき御方)
鎌がゆっくりと僕を指す。
グレミオは僕に気が付いたようだった。
(坊ちゃん・・・!!)
(我が王に栄光の道を示す為、苗床たれ!!)
グレミオは振り返らなかった。
鎌が振り下ろされた。
グレミオは幸せそうに笑って、
僕の名を、呼んだ。
僕は絶叫して目覚めた。
→ 第三夜