闇。草原。
…まただ。
闇の中に広がる草原。青く、輝く草原。
少しいくと巨大な岩があり、そのすぐ横に河原と河が広がっている。
対岸は遠く霞んで、こちらと同様なのか草原らしき輝きが見える。
様相の変わらない、お伽の河。
狭間は一般に地獄と称されているが、この川底にあるのだろうか?
では対岸にも、狭間にも行かない者はどうなるのだろう?
河を渡らずに、露と消える魂は。
全ての者に降り下ろされる鎌。
あれは何、なのだろう。
地獄であって欲しくはない。彼はそこに堕ちるべき人ではない。
祈りは届くだろうか。
…止められない、だろうか。
父上…。
静かに、父上が立っている。
何処にいるのか、知っている様だった。
こちらには、気づいていない。
ゆっくりと風が吹き、河が広がった。
父の前に布が広がり、人の形をとる。
布のすそから出ている手には大きな鎌。
翼は六枚になっていた。
…祈りは、通じたのか?
「それ」はゆっくりとひざまずいた。
(ほこりたかきかた)
(あなたはえらばれたのです、わがおうによって)
(おうのおちからのなえどこたる、だいさんのにえとして)
鎌だけを動かして父上の首にあて。
止めようと走り出した、僕より早く。
(辞退させてもらおう)
(我が王はバルバロッサ様のみ。その思いは死しても変わることはない。他の誰かに仕える事は出来ぬ)
(それに私の命は私の息子に向けたもの。尚更従えぬな)
(第三の贄……前が誰かは知らぬが、なる気はない)
(思いの無い魂は抜け殻しか残らぬ。それでも良いというのなら、使うがよい)
(…その思いも全て、王の元へ)
(出来る筈も無い)
(出来ましょうとも。他のどの魂よりも、あの御方を支え、その憧れとされていたもの。それを選んだのはあの御方)
(そう、あのおかた)
(不死の御子)
(我が王)
(愛しき贄)
(死を誇りとする事を知った、真に覇王となるに相応しき方)
(我が身我が力全て委ねるに相応しき御方)
父を、呼んだ声は絶叫か。
父上は驚いたようだった。
(フェン…レイ…)
(我が王に栄光の道を示す為、苗床たれ…)
制止するより速く。
鎌が引かれた。
父上は満足であるように頷いて、
首を落とした。
……私は乾いた心のまま、目覚めた。
→ 第四夜