化野夜話 〜 第三夜・転





 闇。草原。

 …まただ。
 闇の中に広がる草原。青く、輝く草原。
 少しいくと巨大な岩があり、そのすぐ横に河原と河が広がっている。
 対岸は遠く霞んで、こちらと同様なのか草原らしき輝きが見える。
 様相の変わらない、お伽の河。



 狭間は一般に地獄と称されているが、この川底にあるのだろうか?
 では対岸にも、狭間にも行かない者はどうなるのだろう?
 河を渡らずに、露と消える魂は。
 全ての者に降り下ろされる鎌。
 あれは何、なのだろう。


 地獄であって欲しくはない。彼はそこに堕ちるべき人ではない。
 祈りは届くだろうか。

 …止められない、だろうか。



 父上…。






 静かに、父上が立っている。
 何処にいるのか、知っている様だった。
 こちらには、気づいていない。



 ゆっくりと風が吹き、河が広がった。
 父の前に布が広がり、人の形をとる。
 布のすそから出ている手には大きな鎌。
 翼は六枚になっていた。
 …祈りは、通じたのか?
 「それ」はゆっくりとひざまずいた。











 (ほこりたかきかた)

 (あなたはえらばれたのです、わがおうによって)

 (おうのおちからのなえどこたる、だいさんのにえとして)



 鎌だけを動かして父上の首にあて。
 止めようと走り出した、僕より早く。




 (辞退させてもらおう)

 (我が王はバルバロッサ様のみ。その思いは死しても変わることはない。他の誰かに仕える事は出来ぬ)
 (それに私の命は私の息子に向けたもの。尚更従えぬな)
 (第三の贄……前が誰かは知らぬが、なる気はない)
 (思いの無い魂は抜け殻しか残らぬ。それでも良いというのなら、使うがよい)


 (…その思いも全て、王の元へ)

 (出来る筈も無い)

 (出来ましょうとも。他のどの魂よりも、あの御方を支え、その憧れとされていたもの。それを選んだのはあの御方)
 (そう、あのおかた)
 (不死の御子)
 (我が王)
 (愛しき贄)
 (死を誇りとする事を知った、真に覇王となるに相応しき方)
 (我が身我が力全て委ねるに相応しき御方)



 父を、呼んだ声は絶叫か。
 父上は驚いたようだった。





 (フェン…レイ…)





 (我が王に栄光の道を示す為、苗床たれ…)




















 制止するより速く。
 鎌が引かれた。




















 父上は満足であるように頷いて、










 首を落とした。




















  ……私は乾いた心のまま、目覚めた。





 → 第四夜