闇。草原。
…………あれから随分と沢山の人々を見た。
私はマントにくるまり岩の上に座って、人々が河原に集って船を待つ姿や、河に落ちてそのまま沈む様子、対岸に向かい呼びかける声など、何とはなしに眺め聞いていた。
それが、私の夜の姿となった。
戦争の激化は死を呼ぶ。河に投げ出される者も多くなり、広い河一面に溺れる者のたてる水飛沫が散っている事も良くある事となった。
渡し守はあの鎌で、器用に死者を選り分けてゆく。
…あの鎌は…何なのだろう。
その日は誰もいなかった。
予想も、覚悟も出来ていた。
彼を迎えるためだ…。
………テッド。
テッドは私を見ていた。
私もテッドを見ていた。
テッドは少し、背が伸びたようだった。
(よう)
(…久しぶり)
(いい面になったな。でろ甘の砂糖菓子から、さっぱりした焼き菓子に変わったみたいだ)
(…干上がったって事?)
(じじむさくなった!)
(………)
(冗談だよ! 怒るなよ)
(……怒ってなど、いない…)
(………)
(………)
(……)
(…………)
(……その、…)
(…色々…あったんだ。……テッドと別れてから、…色々……。…解放軍のリーダーになって、グレミオが死んで…父上と戦って……………テッドも、死んで…)
(…)
(………テッド、は……何故、笑えた……? …何故…今も……)
(…笑う…?)
(……私は…もう、笑えそうに、ない……。年を経て…この傷が全て癒えたとしても………もう……)
(……)
(……これが運命と言うなら…私は甘んじて受け入れようと思う……これまでも、そうだったから。あえて…逆らわずに行こうと…思う)
(……)
(……流れは選ぶけれど……ね)
(……そう、か…)
(……)
(……俺を、恨んでるか?)
(…何の為に…?)
(親友って、言ってもいいのか?)
(……テッド以外に、いなかった……そんな物好き…)
(…そうか?)
(………)
(…そっか……)
(……)
風が、吹き。
(もう、行くよ。これでも延ばしてたからな)
(………)
(…ずっと、一緒だからさ)
(……)
(んじゃ、な!)
(………)
(………)
(…テッド)
(え?)
(……秘密にしていた事は…怒ってる)
(……)
(……でも、…話そうとしてくれた……その事は、嬉しかった……)
(…フェンレイ……)
(…………君の道行きに………少しでも、光を……そう、祈っている……)
(………フェン……!)
突然きびすを返して、私を抱き締め。
(ごめん……! お前は……お前だけはって…!! なのに、俺…お前を…こんな!! …ごめん、本当に…!!)
(……テッド)
(………ごめん……フェンレイ…!!)
(…………)
(………)
(……嬉し、かったよ…)
(っ……)
(…テッドは、いつも何も、教えてくれなかった……。その方が…辛かった……)
(……)
(……本当に、友達でいられたと…わかったから……。…私は嬉しかった……)
(………フェン………)
(………そうやって呼んでくれる人、本当に久しぶりだ。全ての人にとって…私は…「フェンレイ様」でしかない…)
(……)
(偶像に…すがることしか…出来ない……、……哀れな、人達しか……)
(…………)
(……この戦い…全て終わったら……、旅に出ようと…思う…)
(………)
(………誰にも…見つからないように…)
(………)
(…………)
(…………)
(…………)
(……………死にたくない…)
(………テッド…)
(こんなお前、一人にして、死にたくない…)
(……テッド)
(……畜生…!!)
翼が。
テッドはいっそう私を抱き締め、
(そばに、いるから……!! だから………!!!)
(………笑って、くれ…………)
→ 第六夜